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展覧会と本と韓国ドラマと時々K-POPかな・・・。

by 梅子

ブラジルの赤

ブラジルの赤_f0149664_1315666.jpgブラジルの赤 ジャン=クリストフ・リュファン著 野口雄司訳

ゴンクール賞受賞作で、フランスでベストセラーになった小説。史実に基づいた歴史冒険ロマン。16世紀、新世界ブラジルを植民地化するべく、3艘の船がフランスの港を出発する。苦難を乗り越えブラジルに到着するも、そこは想像を超えた別世界。

やっぱり夏は冒険ものでしょう、と思い読み始めました。史実を基にとあったので、少し調べてみました。
コロンブスの大西洋航路発見以降、ポルトガルが貴金属のためにブラジルを植民地化。16世紀半ばそこへフランスが侵入してきますが、ポルトガルはそれを退けることに成功します。ポルトガルが植民地化してすぐに鉱物は枯渇し、それに代わる商品として砂糖が注目されます。以降、サトウキビ栽培に移行されていくというのが、この物語前後の背景でしょうか。

父の行方を捜すため、通訳として船に乗り混んだ兄妹。新大陸に到着し、兄ジュストは提督ヴィルガニョンのもと剣術を磨き、妹コロンブは現地のインディアン達との交流を深めていきます。仲が良かった兄妹ですが、成長と共に価値観の相違に気づきます。また、この物語にはあらゆる「相違」があります。宗教の相違、民族の相違など、受け入れることも、反発することも容易ではありません。
本国フランスで蔑視されたユグノー(プロテスタントの一派)たちが、新大陸での新しい生活を求めます。そこに再洗礼派も混じり、カトリックも含め三者の宗教対立となります。この辺りは、日本人にはなじみの薄い宗教的な問題ですが、さほど難解な感じもなく読みやすかったです。丁度、ヨーロッパでは、マルティン・ルターが、教会の堕落を批判しプロテスタントの源流を作り、カトリックとプロテスタントの対立が激しかった頃なのでしょうか。
ヨーロッパから見た、ブラジルのインディアンたちの驚愕の生活と彼らとの調和。たとえ彼らの文化を受け入れたいとしても、受け入れるインディアン側にも抵抗があります。
近年に多い架空の世界での冒険ものには無い、堅実で充実感のある物語です。
先住民に対する迫害や、宗教問題など、現代にも通じる重いテーマを抱える物語ですが、最終的に求められるのはお互いを認めることですよね。幼い兄弟ジュストとコロンブが成長しながら、そんな問題に向き合うさまに引き込まれていきます。提督ヴィルガニョンも、希望を抱いた船出でしたが、現実は困難の連続。苦難の航海、砦の建設、食糧問題、宗教問題、先住民との調和、ポルトガルとの対立等など、様々な決断を迫られます。

読後ですから、史実としての結果や、物語上の結末ではなく、自分なりの結末として多くの事を考えさせられるなと振り返ります。しかし読んでいる間は、単純に冒険物語として満喫できました。夏休みにぴったりの1冊です。
by umekononikki | 2010-08-20 13:15 |