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展覧会と本と韓国ドラマと時々K-POPかな・・・。

by 梅子

楽園への道

楽園への道_f0149664_9441713.jpg楽園への道
(池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-2)
マリオ・バルガス=リョサ著
田村さと子訳

フローラ・トリスタン、「花と悲しみ」という美しい名をもつ一人の女性。彼女は、女性の独立が夢のまた夢だった19世紀半ばのヨーロッパで、結婚制度に疑問をもち、夫の手から逃れて自由を追い求めた。そしてやがて、虐げられた女性と労働者の連帯を求める闘いに、その短い生涯を捧げることとなる。ポール・ゴーギャン。彼もまた、自身の画のためにブルジョワの生活を捨て、ヨーロッパ的なるものを捨てて、芸術の再生を夢見つつ波瀾の生涯をたどる。貧困、孤独、病など、不運な風が吹き荒ぶ逆境の中、それぞれのユートピアの実現を信じて生き抜いた二人の偉大な先駆者を、リョサは力強い筆致で描ききる。

「我々はどこから来たのか、我々は何者か、我々はどこへ行くのか」。この作品を観た瞬間、ゴーギャンが大好きになりました。そのゴーギャンの生涯は、おおよそ知ってはいました。しかし彼の祖母フローラ・トリスタンについては、勉強不足で知りませんでした。
さて、ゴーギャン。まさに「知ってるつもり」状態です。(昔そんなタイトルの番組がありましたね。)「我々はどこから~」の静謐な印象からはかけ離れ、社会人としてはなんだか行き当たりばったりのふがいなさ。そんな人間からどうしてあのような作品が生まれたのか、非常に興味深く読み進めました。ゴーギャンは自身をどのように見つめ、何を感じ、どのように生きたのか。物語の始まりから既にゴーギャンの生活は破綻しています。と同時に、彼の祖母フローラは、既に虐げられた女性と労働者たちのために活動しています。そんな二人が、自身を振り返りながら物語は進みます。とりわけゴーギャンの人生は印象的。模範的な人生の前半に対し、後半は同一人物かと思わせるほど崩壊の一途。それにも拘らず、後半の人生の方が魅力的に感じるのは、誰もが打ち破りたいと感じる殻を打ち破ったからなのでしょうか。殻を打ち破ることは、必ずしも成功が保証されていないからこそ、誰もができることではありません。ゴーギャンも同様で、今でこそ印象派の巨匠ですが、当時は画家としてもそれほどの評価は得られず、金銭的にも非常に苦しく、肉体的にも病んでいました。しかし、彼は殻を打ち破ったのです。その一線を越えた勇気や情熱が、彼を魅力的に見せたのかもしれません。身近にいるとどうしようもない男ですが、物語の中では彼の作品同様、惹きつけて離さない魅力が溢れるのです。ゴーギャンと共に作者リョサ自身の偉大さにも感服しました。ますますゴーギャンが好きになる一冊です。
by umekononikki | 2011-08-25 09:44 |