展覧会と本と韓国ドラマと時々K-POPかな・・・。

by 梅子

エコー・メイカー

f0149664_1533048.jpgエコー・メイカー
リチャード・パワーズ著
黒原敏行訳

マークが、事故に遭った。カリン・シュルーターはこの世に残ったたった一人の肉親の急を知らせる深夜の電話に、駆り立てられるように故郷へと戻る。カーニー。ネブラスカ州の鶴の町。繁殖地へと渡る無数の鳥たちが羽を休めるプラット川を望む小さな田舎町へと。頭部に損傷を受け、生死の境を彷徨うマーク。だが、奇跡的な生還を歓び、言葉を失ったマークの長い長いリハビリにキャリアをなげうって献身したカリンを待っていたのは、自分を姉と認めぬ弟の言葉だった。「あんた俺の姉貴のつもりなのか?姉貴のつもりでいるんなら、頭がおかしいぜ」カプグラ症候群と呼ばれる、脳が作り出した出口のない迷宮に翻弄される姉弟。事故の、あからさまな不審さ。そして、病室に残されていた謎の紙片―。幾多の織り糸を巧緻に、そして力強く編み上げた天才パワーズの驚異の代表作にして全米図書賞受賞作。

読み応えのある、素晴らしい物語でした。600ページを超えるのですが、全く苦にならないほど夢中読みふけりました。明らかな謎と、何かがおかしいと感じさせる漠然とした謎に翻弄され、気がつけば最後のページをめくっていました。冒頭の鶴たちの情景が印象的で、だからというわけではないのですが、日本人的な繊細さを感じる、繊細な心理の糸を、細心の注意を払い一枚の布に仕上げたような印象です。カプグラ症候群になったマークだけでなく、彼を取り巻く人々も、何がおかしくない状態なのかがわからなくなっていきます。そもそもカプグラ症候群って名前だけで、もう何がなんだか意味不明の渦に巻き込まれてしまいました。そんな脳が人間を支配しているのか、人間が脳を操縦しているのか、何をもって自分が正常だといえるのかといった、眩暈を覚えるような世界観に浸っていたのですが、見事に正気に戻させてくれるような鮮やかなラスト。素晴らしい!
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by umekononikki | 2012-11-03 15:03 |