展覧会と本と韓国ドラマと時々K-POPかな・・・。

by 梅子

狂気

f0149664_236575.jpg狂気
ハ・ジン著
立石光子訳

山寧大学の楊教授が、脳卒中で倒れた。夫人はチベットに赴任中、娘の梅梅は北京で医学院受験に追われている。愛弟子で梅梅の婚約者でもあるぼくは、学部を取り仕切る彭書記から教授の付き添いを命じられた。病床で教授はうわ言を口走り、高潔で尊敬を集める人とは思えぬその言葉にぼくは驚く。どうやら経費の問題、不倫の疑い、何者かにゆすられている節もあった。意識の混濁する教授に翻弄され、迫る大学院入試の準備もできず、ぼくの苛立ちは募る。どんなに学問を究めても役人より格下でしかないと、学者の人生を悔いる教授の激しい憎悪と惨めな姿を目にするうちに、ぼくは自分の進路に疑問を抱く。そんなぼくを梅梅はなじり、去っていく。折りしも北京では自由を求める学生が続々と天安門広場に集まっていた。すべてを失ったぼくは北京へ向かうが…。全米図書賞受賞作家が天安門事件を題材に、非情な現実に抗う人間の姿を描く渾身の書。

これは面白かった。病床での教授のうわ言に翻弄される主人公は、傍から見れば奇妙な光景。正気では語ってくれなかったであろう教授の言葉は、正気じゃないだけに真に迫るものがあるってところもなんだか奇妙。そんな奇妙な設定ながら、物語は緊迫感があり、何か不穏は動きが感じられます。舞台は天安門事件の頃の中国。当時の中国の実情を垣間見るかのような、大学や病院、農村と北京、学生の進路などが生々しく描かれており興味深く読みました。そもそも失礼ながら、日本に生まれ育った私には中国そのものが狂気の世界に感じます。莫大な人口に広大な国土、一党独裁体制に共産主義、加えて資本主義経済が両立するさまは、理解を超えています。ああ、話がそれましたね。生きることの喜びや苦しみを味わった教授の言葉は、たとえ狂気の中にあっても一人の青年にとっては真実の言葉になったのですね。主人公を取り巻く国や規制概念など全てのしがらみから解き放たれるような、希望を感じるラスト。面白かったです。
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by umekononikki | 2013-01-26 23:07 |