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展覧会と本と韓国ドラマと時々K-POPかな・・・。

by 梅子

雪_f0149664_10195642.jpg オルハン・パムク著 和久井路子訳

雪のトルコ。12年ぶりに、訪れたトルコ辺境の町カルスで、主人公Kaが偶然にも3日間のクーデターに巻き込まれる。


どうしても日本人の多くは多神教なため、「宗教」というものをアバウトにしかとらえられないですよね。何処かで聞いたことがありますが「貧乏神」が居るのも、日本独特らしいです。「神さま」と名のつくものは何でもいらっしゃい状態。八百万の神様が居るのですから。産まれたら神社でお宮参り、結婚式は教会で、亡くなるとお寺のお坊さんとお葬式。本当に何でもありですね。

閑話休題。
「宗教」とは何なのかと、考えさせられます。とりわけ一神教の世界では、唯一絶対の神以外は考えられないこと。そこに政治的問題が絡み、複雑極まりない状態となっているのが現在の中東ですよね。
この物語の舞台はトルコですが、イスラム教は戒律が厳しく、その伝統を守ろうとする派閥と、西欧化を図る政府との対立が軸となり、クーデターが勃発します。
世界には様々な価値観が存在しています。それは分かっているのですが、お互い理解し受け入れることは非常に困難なことです。社会の中でも「みんなと違うから」という理由で、いじめにあったりするのですから。それが「宗教」や「政治」という大きな集団になるとなおさらです。

主人公は、トルコ辺境の町カルスで、失った何かを求めやってきます。しばらく書くことのできなかった「詩」が、この町に来てから天から脳裏に降りてくるようになります。そして、狂おしいほどの恋に身を焼き、クーデターに巻き込まれ、一体何を得ることができたのかと考えさせられます。人にはそれぞれの幸福がありますが、そもそも「幸福」とは何なのかと哲学したくなるような物語です。登場人物全てに異なる価値観があり、お互いが同じ方向に向いているようで、実は違う方向に歩んでいる。その歩みが、思いもしない方向へ流れを生み、本人の意思とは違う方向に流されていく。そんな世の中の不条理を感じずにはいられません。

雪で閉ざされた町の、美しさと閉塞感。「パン」という銃声ひとつで、命が絶たれてしまう軽さと、それぞれの思いの重さ。得た物ははかなく、代償として失った物は永遠に戻ることは無い。非常に読み応えがありました。
by umekononikki | 2010-07-22 10:20 |