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展覧会と本と韓国ドラマと時々K-POPかな・・・。

by 梅子

ジェルミナール

ジェルミナール_f0149664_1125839.jpgジェルミナール エミール・ゾラ著 安士正夫訳

帰省の電車で読もうと、図書館にある数少ない文庫本でもと思い借りた薄い本。(と、言っても上・中・下の3冊に分かれているからですが。)ゾラと言えば、エドヴァール・マネをモデルにしたと言われる「制作」しか読んだことがありません。本の案内に「最高傑作」とあったのが手に取ったきっかけ。
それともう一つ。炭鉱労働者のストライキを描いた本書、視聴中の韓国ドラマ「エデンの東」の主人公の父親は炭鉱労働者だったよなと思いつつ読み始めました。

19世紀後半。不当な扱いを受ける炭鉱労働者たち。リスクに対して、あまりにも安い賃金。経営者は裕福な暮らしぶりで、労働者たちを人間とは思っていません。たまりかねた労働者たちが、ストライキを決行します。

劣悪な労働環境に、貧しすぎる暮らし。そんな労働者たちが、克明に描写されています。準備不足のストライキにより、状況が悪化するさまは、胸を突かれます。経済発展とは何なのかと・・・。
最近のニュースで「高齢者の所在不明」は、自分の高齢の両親と一緒に生活できず、更には連絡さえ取り合わないという希薄な家族関係を浮き彫りにしています。豊かな社会とは、と考えずにはいられません。
この物語の様に劣悪な環境で働く人たちの犠牲により、産業革命が経済発展につながったのでしょうか。現在の日本は、家族間の愛情や人間関係における「情」を犠牲に発展してきたのかもしれません。この物語を読んでいて、リンクしてしまいました。
先日読んだ滝沢馬琴の描いた「南総里見八犬伝」の八犬士は「仁義礼智忠信考悌」の玉を持って己の信念としています。そんな日本人ならではの「心」を忘れてしまったのでしょうか?
リーマンショックや、原油の高騰、円高と最近の経済状況は厳しい物があります。資本主義社会が、飽和状態になったのかと感じます。かといって、社会主義・共産主義が良いと言っている訳ではありません。ただ、新しい経済システムの生みの苦しみを味わっているのだと、希望的観測をしたくなります。

劣悪な労働環境から抜け出せずもがき苦しむ様は、読んでいて気持ちの良い物ではありません。しかし、「芽生え月(ジェルミナール)」のタイトルのように、労働者たちの心に何かが芽生え希望を感じるラストに救われます。
「ゾラの最高傑作」違わぬ、すばらし作品でした。
by umekononikki | 2010-08-23 11:03 |