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展覧会と本と韓国ドラマと時々K-POPかな・・・。

by 梅子

ビルバオ-ニューヨーク-ビルバオ

ビルバオ-ニューヨーク-ビルバオ_f0149664_1628463.jpgビルバオ-ニューヨーク-ビルバオ
キルメン・ウリベ著
金子奈美訳

主人公キルメン・ウリベは、バスクの中心都市ビルバオから、飛行機でニューヨークへ向けて旅立つ。心に浮かんでは消えていく、さまざまな思い出や記憶…。祖父の船の名前をめぐる謎。スペイン内戦に翻弄されたバスクの画家アウレリオ・アルテタと、ピカソの“ゲルニカ”にまつわる秘話。漁師として、ビスケー湾からスコットランド、アフリカ沖、カリブ海へと海を渡り歩いた父や叔父たちのこと。移民や亡命者たち。そして今書いている小説のこと。失われゆく過去を見送りながら、新たな世界へと船出していく、バスク文学の旗手による珠玉の処女小説。

心温まる物語ではないのに、なぜか心地よい世界観に浸りました。訳文とはいえ、これがバスク語の持つ雰囲気なのかなと感じたりもします。味わい深い物語でした。個人的には時々出てくる画家たちのエピソードが、興味深かったです。ベラスケスのくだりなどは、この物語の作者のスタンスを表現していて、まさに鏡を使って文章を書いたかのような面白さがあります。取り留めのない物語の集合体のようですが、やはり最後には一つの物語として盛り上がりを感じる快感。取り留めのない、突如として現れる物語にも、それぞれの役割があり、時間と場所を飛び越えながらも、一つのドットとして存在し、気がつけばドットが整列し、一つの絵になるような印象でした。近づいてみれば色の違う一つの点が、離れてみれば大きな絵になっているようなものとでも言うのでしょうか。とても好みの物語でした。
by umekononikki | 2012-12-04 16:28 |